第68回 建築士全国大会ぐんま大会

 絶好の秋空の下、第68回建築士会全国大会ぐんま大会に参加しました。今年度は「絹の国 建築つむぎ 未来へはばたけ」を大会テーマに、全国から約2,270人が参加し盛大に開催されました。
1.交流セッション
 午前中は青年、女性、環境などの交流セッションが開催されましたが、その中でまちづくりセッション②「市民・企業・専門家・官の連携によるまちなか再生」に参加しました。現在前橋市では「馬場川通りアーバンデザインプロジェクト」というまちなか公共空間の再整備に取り組んでおり、ここには行政だけでなく民間主体の「前橋デザインコミッション(MDC)」のほか、地元企業の旦那衆である「太陽の会」など幅広い団体が参画し、全国的にも注目の取り組みとなっています。
 まず前橋市市街地整備課の担当者から事業概要の説明がありましたが、これは単なる遊歩道整備ではない、前橋市全体のまちづくりの方向性を示すプロジェクトであるとのことでした。前橋市も人口減少や中心市街地の衰退という課題を抱えている訳ですが、前橋市出身でメガネ販売店のJINSを経営する田中氏が中心となり、2016年に今後の前橋市のまちづくりのビジョンである「めぶく」を策定します。このビジョンを具体化する目的で田中氏が中心となって「太陽の会」を結成し、この馬場川通りの再整備に3億円を供出したことがきっかけでした。次に前橋市のプロジェクトを資金面で支える民間都市開発推進機構の方から現在国が目指しているまちづくりの理念について説明がありました。行政主体、作って終わりのまちづくりから、公民連携によって生まれる正の循環による人中心のまちづくりへの転換ということでした。次に馬場川通りプロジェクトの意匠デザインを担当した方からその考え方について説明がありました。前橋市の自然資本をまちなかに再生し市民の誇りとなる場所を作る、生活用水として引かれた馬場川の水辺環境を市民の手に取り戻す、といった趣旨のもとデザインを考えたそうです。その際、幅員12mの空間に河川管理者(馬場川)、公園管理者(遊歩道)、道路管理者(道路)と3者も協議すべき相手がおり、普通なら時間と手間がかかるところ前橋市市街地整備課が取りまとめ役になってくれたとのことでした。最後にこの地域の活性化に取り組むMDCの方からどういった趣旨で活動しているのかについて説明がありました。図面を描くだけではまちには届かない、関わる人たちが共通言語で未来を語れることが大事で、いわゆる計画書だけで関係者が未来図を共有することは難しいとのことでした。
 その後のパネルディスカッションで「4者の中で先導役は誰か?」という質問がありましたが、「主役はいない。顔が見えないと言われるが、むしろそれが良い」という話がありました。新潟県内でも各地でまちづくりが行われていますが、とかく行政任せになりがちです。前橋市では地元企業の旦那衆である「太陽の会」が自ら資金を供出し、市民団体が運営で汗をかき、行政はそのバックアップという形が見えました。そしてそこには関係者全員が本気で前橋市を良くしたいと願い、こういうまちになって欲しいというビジョンが共有されていました。馬場川はこうした活動の一端でしかなく、今後更なるまちなかへの展開が期待されます。本事例は土木事業ではありますが、建築でも同じではないでしょうか。施主、設計者、工事関係者だけでなく、そこを使う人や周辺の人も巻き込み、その後のまちがどうなって欲しいかを共有することが必要なのだと思いました。

2.記念講演会
 午後からは記念講演会に参加しました。最初に歴史家・高崎商科大学特任教授の熊倉浩靖氏から「生き続ける文化遺産」と題して講演がありました。最初にアントニン・レーモンド氏設計の群馬音楽センター(1961年)の建設経緯の説明がありましたが、その後の回顧録で建設資金3億円(当時)のうち1億円は高崎市民の寄付だったそうです。この音楽センターがその後の高崎市にどういった効果をもたらすか、先見の明と想像力をもった市民がいたと振り返っているとおり、その後高崎市は音楽のまちとして文化活動が盛んな都市になりました。群馬音楽センターがまさに生き続ける文化遺産となっていることは疑いの余地がありません。
 次に父方が高崎市の出身という建築家・永山裕子氏から「建築というきっかけ」と題して講演がありました。最初に永山氏が群馬県内で手掛けた5つの作品の紹介がありました。前橋市の中心市街地の飲食店のほかJINS PARK前橋の説明がありましたが、どれも周辺環境との調和や使う方のことを考えた素晴らしい作品でした。その後、「動く建築」と題して関西大阪万博での事例が紹介されましたが、これはその前のドバイ万博で使用した資材を再利用したとのこと。今後は2027年の横浜花博でも再度利用されるとのことで、まさに動く建築でした。

3.大会式典
 最後に大会式典が開催されました。国土交通省、林野庁、群馬県知事、高崎市長を来賓に迎え、開会宣言、群馬県建築士会会長挨拶、建築士連合会会長挨拶と続き、伝統的技能者表彰、建築作品賞表彰、地域実践活動表彰が行われました。地域実践活動表彰では静岡県建築士会の「建築お仕事フェスタ」という小中学生を対象とした17種類の体験プログラム、鹿児島県建築士会の「子供の夢を建築する」という子供の夢や発想を実際の模型にする取り組みが受賞されました。その後、大会旗が次回開催地の香川県建築士会に手渡され、盛況のうちに式典は幕を閉じました。

 今回初めて全国大会に参加しました。きっかけは故郷の群馬県での大会であること、青春時代を過ごした前橋市中心市街地での取り組みに以前から興味があったことでしたが、実際に様々な方の取り組みを聞き、建築士という仕事の幅広さを改めて実感しました。とかく日々の業務では目の前の物件だけに集中してしまいがちですが、時に視野を広げ、建築士の持つ可能性に思いを馳せることも大事なことだと思いました。都合により夜の交流会には参加できませんでしたが、次回全国大会に参加する際は、全国の建築士の仲間と交流を深めることも期待したいと思います。